シネシャモ29「前衛映画祭」
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シネシャモ
(過去の上映作品はこちらから)
Avant-garde: Experimental Cinema of the 1920s and 30s |
第29回シネシャモ上映会
2006年11月
今回は Kino から昨年発売されたDVD2枚組 "Avant-garde: Experimental Cinema of the 1920s and 30s" を鑑賞します。このDVDのために新たに加えられた前衛音楽が雰囲気を出しています。特にお気に入りの5作のみ紹介。2006年11月にシネシャモ日記に書いたものです。 Disc 1 劇場の予告編に衝撃を与える
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Menilmontant 「メニルモンタン」 フェレル女王ます フィルム・ノワールを調べているときも参照したリチャード・ラウド編集の "Cinema: A Critical Dictionary" という2巻から成る映画作家事典の2巻目の最初は衣笠貞之助で、二番目がディミトリ・キルサノフ (Dimitri Kirsanoff) です。論じているのは P・アダムズ・シトニー (P. Adams Sitney)。写真が一枚掲載されています。夜の公園のベンチの右端で男性が何かを食べていて、 左端で赤ちゃんを抱えた若い女性が見つめているというコントラストの強い写真です。なんかいろんなドラマを想像させる写真で、80年代の初めにこの本を買ったときから、どんな映画かずっと思いをめぐらせていました。タイトルは「メニルモンタン」(Menilmontant)。パリの地名らしい。 で、昨年の夏、アメリカで発売された "Avant Garde - Experimental Cinema of the 1920s & 1930s" に入っていたので、さっそく購入しました。期待をはるかに上回る素晴らしい作品でした。1925年に作られた37分の中編映画で、キルサノフはまだ20代半ばでした。もともとロシア人で、ロシア革命後、音楽を勉強しにパリに来たのでした。 字幕はまったくないのですが、大まかなストーリーは自然とわかります。両親を殺されたふたりの姉妹がパリに出て紡績工場で働き始める。妹が男性を好きになり体を許すが、何日かたって、姉が彼の家に入っていくのを見て、ショックを受ける。妹は彼の子供を生むが、行くあてもなく寒いパリをさまよう。夜中、街角でうずくまっていると、娼婦になった姉と出会い、二人は和解する。 大まかなストーリーはわかるけど、細かい部分は観客の想像に任せています。最初� ��ある男に両親が殺されるのですが、この男が何者かわからないし、動機もわからない。ただ、おののく両親の顔や斧などの短いショットを重ねているだけです。しかも、このエピソードはこれで終って、姉妹がパリに出てからは何の言及もない。しかし、このシーンは観客の心の中にずっと残っているのです。最後は姉妹をもてあそんだ男性が別の女性にナイフで刺されるので、姉妹の悲しい物語が暴力的なシーンでサンドイッチされているというわけです。 冒頭に言及した写真は、赤ちゃんを抱えてパリをさまよう妹が夜ベンチでうつろになっているときに、年配の男性がパンとハムを取り出して食べるのを、妹が横目でそっと見ているシーンでした。男性も貧しそうなのに、パンを半分ちぎってベンチの上に置くのです 。それを彼女は涙を流しながら食べるのです。吐く息がすごく白い。その前に彼女はセーヌ川沿いをさまよっていたのですが、水面などの細かいショットの積み重ねによって、自殺を考えている彼女の心の動きを見事に表現しています。 妹を演じるナディア・シビルスカイアはキルサノフの奥さんで、彼女も20代半ばでした。小柄な美人です。最初のシーンでは、両親が殺されている間、姉妹は木立の間で遊んでいるのですが、少女らしさを出すために、頭にリボンをつけ、超ミニのワンピースを着ていて、コスプレに見えるところが現代風です。ビジュアル系ロックグループのプロモーションビデオを見ているような感じです。パリに移ってからも彼女だけが現代風に見えます。 Paul Mercer のバイオリンとビオラ、Bruce Bennett のピアノとパーカッションも非常に効果的です。たぶん、このDVDのために新たに作られたものだと思います。(2006年11月2日) オロンを描画する方法 |
La Glace a trois faces 最初見たときはストーリーがチンプンカンプンだったのですが、何度も見ていくうちに、次第にはっきりしてきました。冷たい感じの二枚目の若者には3人の愛人がいるのだけど、彼はうとましく思っているらしく、三人から開放されて一人でスポーツカーを乗り回すのが楽しくてしょうがない。しかし、スポーツカーで爆走中に鳥が額に当って失神し、道端の木にぶつかって死んでしまう。 三人の女性と付き合っている様子が順番に描かれるのはオムニバス風のわかりやすい構成です。最初は上流階級の女性パール、二番目は彫刻家アタリア、三番目は庶民的なルーシーです。が、各々のエピソードが女性の回想になっていて、最初何度か見たときは過去と現在の区別がつかなくて混乱しました。 主人公とパールはレストランに行きます。主人公が知り合いに挨拶するために席を離れている間、パールは色目を使う隣の席の男性と視線を交わします。それに気づいた主人公は、隣の席の男性に対して、「彼女は君の興味を引こうとしている。彼女は完全に君の物だ」とか言って、立ち去ります。二人は侮辱された感じになったので、パールは泣きながらレストランから飛び出します。二番目と三番目は、これほど明確なエピソードはないけど、何か関係がギクシャクしている様子が描かれています。 ストーリーよりも実験的な映像が面白いです。各女性が頭の中で描いている主人公の一人称的イメージ、上昇するのエレベーターの隙間から撮影した光と影のコントラスト、建物内にある駐車場からぐるぐる回りながら外に出る車の前方を撮影した映像、ルーシーが主人公との思い出を回想する際の時間の流れを無視したモンタージュ、主人公と一緒にボートに乗ったルーシーが手を入れる水面、疾走するスポーツカーから撮影した風景などです。(2006年11月6日) |
Le Tempestaire (Jean Epstein, France, 1947, 22.5 min.)DVD2枚組 "Avant Garde - Experimental Cinema of the 1920s & 1930s" に収められているジャン・エプスタンのもう一本の作品は "Le Tempestaire" で、20分少々の短編です。英訳タイトルは "The Tempest: Poem on the Sea" (「嵐:海の詩」)です。村に若い娘がいて、不吉な予感がするので、恋人が漁に出るのを止めようとするが、恋人は漁に出る。予感どおり海が荒れたので、嵐を静めることができるという老人に会いに行く。老人がガラス玉を見つめると、嵐は静まり、恋人が戻ってくる。 1947年の作品です。エプスタンは1920年代のフランス印象主義の人だと思っていたので、戦後にも作品を残していたのが意外です。ただ、戦後作品はもう1本あるだけで、1953年に脳出血で死去しています。生まれたのは1897年です。ポーランド出身ということと、エプスタンという苗字から、ナチスからユダヤ人だと疑われ、第二次大戦中は苦労したようです。 ゴダールは、短編映画について、ストーリーや考えを展開するほど時間が長くない� �で映画作家の才能だけが頼りだというようなことを1958年に書いているのですが、この作品はエプスタンの才能を十分に伝えています。 前回取り上げた「三面鏡」は、アラン・レネのように時間の並べ方に工夫を凝らしていましたが、今回は時間順なのでわかりやすいです。20分しかないので、ゴダールが言うように時間的な展開は無理だけど、雰囲気や心情風景といったものが素晴らしいです。 ブルターニュ地方の実際の風景の中で、素人らしき出演者たちが素朴に演じていて、同時期のイタリアン・ネオリアリズムのように自然主義的ですが、表現主義的なところもあります。老人がガラス玉をのぞくと、雲が非常に速く流れ、波は次第に遅くなって、ほとんど止まってしまい、ついには逆回転してしまう� �波の音も次第に遅くなります。 ほかに印象に残ったことを挙げてみます。
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Regen (Rain) 「雨」 ヨリス・イヴェンス(Joris Ivens, 1898-1989)は、ドキュメンタリー作家だということを知っているぐらいで、詳しくは知りません。1990年に渋谷ユーロスペースで「風の物語」という遺作を見ましたが、よく理解できなかったように記憶しています。 オランダ生まれで、30年代にソビエトの5ヵ年計画やスペイン内乱に関するドキュメンタリーを撮ったり、戦後は東欧や中国で撮影したり、60年代にはベトナムに出向いたりと、政治意識の強い活動的なドキュメンタリー作家だったようです。レネやゴダールも参加した「ベトナムから遠く離れて」にも参加しています。 その一方で、「セーヌの詩」(1957)のような映像詩とでも言うべき作品も残しているようです。この「雨」(1929、マヌス・フランケンと共同監督)もそうで、どこかの都市で雨が降り始めてから止むまでを短いショットを重ねて詩的に描いています。14分ほどの作品で、数えてみたらショットが全部で150少々だから、1ショット5秒から6秒平均です。 各ショットに写っているのは、川の水面、通過する船、風で揺れる木や洗濯物、雨が落ち始める水面、歩く人々や走る自転車が映る濡れた路面、雨のしずくがついた市街電車の窓ごしに撮影した街の様子、傘をさして歩く人々、軒先から大量に落ちる雨粒、雨がやんだあとの濡れた路面、町のあちこちにできた水たまりなどです。 最初に Lou Lichtveld というが音楽を担当しているとクレジットされているのですが、なぜか Larry Marotta という人のギター演奏に差し替えられています。サウンドトラックが傷んでいたのかな?この新録も寂しげで悪くないのですが、もともとどんな音楽だったのか興味津々。(2006年11月13日) |
H2O ほとんど水面のみを写した12分ほどの作品で、1929年に作られました。最初のほうに滝やポンプの映像が出てきますが、すぐに草や杭のようなものが映っている水面の映像になり、やがて光と影による抽象的な模様になります。もともとサイレント作品のようですが、このDVDではヨリス・イヴェンスの「雨」と同じギタリストが即興的な伴奏をつけています。 "Lovers of Cinema" という1919年から1945年のアメリカの初期前衛映画に関する本に、この作品の作者ラルフ・スタイナー(Ralph Steiner、1899-1986)に関する章があります。写真家だったスタイナーは、映画に興味を持った当初、映画を写真の延長と考え、変な道路標識に焦点をあてた映画を撮ろうとしたのですが、「映画を撮るなら、動いたものを撮らなきゃならないことに気づいたんだ。神のお告げだった!」というわけで、その処女作を中断して作ったのがこの「H20」でした。この本は「H2O」について詳しく分析しています。興味のある方は自分で調べてください(私は、このところ仕事が忙しくて、その元気はない)。 Hollywood Party の「サイレント映画」の「シュルレアリスム映画作品集」で見ることができます。アメリカのDVDでは、今利用している2枚組 "Avant Garde - Experimental Cinema of the 1920s & 1930s" のほかに、"Unseen Cinema - Early American Avant Garde Film 1894-1941" という7枚組にも収められています。これも持っていますが、量が多すぎて、1年前に買ったのに、まだ全部見ていません。この7枚組についてはこちらでどうぞ。 |
ご意見などお気軽に。
村長 粟村彰義 (アワムラ アキヨシ)
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