日本で生まれ、日本でダンスの勉強後、ローザンヌ（ルードラバレエ学校）でもダンスの勉強を続けた。

1996年パリのフランスバレエ学校に登録し、1997年8月から、現在まで、ジュネーブバレエ大劇場に所属している。

Art Levant – 日本でのダンスの経験を簡単に教えてもらえますか ?

加美ゆかり - 9歳からクラシック・バレエを始め、16歳より下関の杉原和子先生、杉原小麻里先生に師事。ルードラでは、クラシックの他、モダン、演劇、歌や剣道のレッスンも受けました。

Art Levant – どうしてフランスにいらっしゃったのですか?モーリス・ベジャールと仕事を一緒にするためですか？

加美ゆかり - 日本でバレエをするにはお金がかかるし、プロのダンサーとして生活して行くのは無理なので、海外にでて挑戦しようと思っていた時に、ベジャールバレエが日本公演に来ており、ルードラのオーディションが行われたので、受けて合格しました。私の母や私自身もベジャールさんのファンだったので、彼に直接選んでいただけ、本当に驚きました。

Art Levant – ベジャールさんのところではどんなことに興味を引かれたのですか ?

加美ゆかり - ベジャールさんが、さまざまな国に興味を持って、さまざまな国のダンサー達と仕事をしていることを含め、人間自身に興味を持ってくれているところ。大きい人も、小さい人も、肌の色も関係なく、ベジャールさんは人の身体的な欠点でさえ人間の魅力としてとらえていると感じました。

Art Levant – モーリス・ベジャール氏と直接仕事をすることがありますか ?　彼との思い出はどんなものですか？そのことは自分の進む道に影響をおよぼしましたか？たとえば、ダンスにたいする考え方とか？

加美ゆかり - 学校公演でソロなどを踊るたびに直接指導していただき、女子生徒7人の為に作品も作られました。深い青い色の目がすごく印象に残っています。とにかく色々な本を読まれている方で、知識がすごいと感じました。ルードラに行っていなければ、プロのダンサーとしての今の自分は存在しないかもと思うほど、さまざまな事を学びました。現在のカンパニーで色々な作品を踊るたびに、ルードラで習ったことが役立っています。

Art Levant – ジュネーブ大劇場にはどのような経緯で入ったのですか？自分の芸術の方向性にあっているからそこを選んだのですか？（それとも、ただ単に偶然なのか必然なのか・・・）

加美ゆかり - ルードラの学校公演がジュネーブであり、その時にディレクターから声をかけられました。その時点では、パリのJBF(Jeune Ballet de France)と1年間の契約をすませていたので、1年後にオーディションを受けに来ることにし、オープンオーディションを受けて入団しました。

 Art Levant – 今まで踊った中で、一番気に入っている役どころは何ですか ?その理由は？

加美ゆかり - オハド・ナハリン振付のAxioma やフォーサイス振付のSteptextは、バレエをやめる前にもう1度踊りたいと思う作品です。それでも、1番大切な作品はベジャールバレエ出身の若手振付家、アンドニス・フォニアダキスのSelon Désir です。5 年前バレエ団のディレクターが変わり、シーズンいっぱいで首を言い渡され、もう充分踊ったし、バレエをやめようと考えていました。そんな時にアンドニスと仕事をし、バレエが自分にどれだけ大切か気づき、踊りに取り組む態度まで変わりました。

それを見たディレクターが、自分は大変な過ちを犯してしまった、バレエ団に残ってほしいと言ってくれたのです。今でもこの作品は踊っていますが、忘れられない経験です。

Art Levant – どうして、AxiomaとSteptextなのですか?ダンサーとして、役以上に何に興味を持ったのですか？

加美ゆかり - 私は物語があって、作られた役を演じる作品よりも自分自身でいられる作品の方が好きで、この2つの作品ではバッハの美しい曲のなかで、動きそのものを楽しむことができました。技術的にも自分の身体能力の限界への挑戦で、踊った後の満足感はなんともいえませんでした。

Art Levant – アンドニス・フォニアダキス氏はあなたを信頼していますよね。そしてあなたもアンドニスを尊敬しています。振り付け師として、彼の考え、バレエやダンスの捕らえ方に共感することができますか ?

加美ゆかり - 私はアンドニスの動きを彼が望んでいるのに近い形で表現することができていたと思います。彼は音楽性があり、空間の使い方もうまく、音楽のフレーズごとに、それに一番あった動きを選ぶことができる人だと思いました。

Art Levant – ストラビンスキーの春の祭典でXXの主役を任されましたね。30分以上ものソロパートがあり、その
間観客の注意をひきつけ、暴力、やさしさ、官能、怒りといった様々な感情を表すという大変難しい役だと思います。このことは、振り付け師があなたを大変信用しているということができると思いますが、どのような経験でしたか ?

 
加美ゆかり - アンドニスともう1度仕事ができるのはすごく嬉しかったのですが、衣装の件で、私はかなりとまどい、何度も話し合いをしなければなりませんでした。裸同然の衣装で、公演を見に来る人の中には芸術としてではなく、女性の体としてみる人もいるだろうと、なかなか思い切ることができなかったのです。アンドニスは、彼のイメージやアイデアをすごく細かく話してくれ、インスピレーションをうけたというビデオやイメージもいくつも見ました。7週間1日中この作品だけをリハーサルし、最終的には舞台上で裸でいることが全く気にならない状態まで持っていくことができました。表現の面は自分なりにも解
釈して自然にやることができたし、とにかく無我夢中という感じでしたが、30分以上のソロというすごい経験をさせてもらえました。

 
Art Levant – 時間が過ぎた今、どんなお気持ちですか ?思い切ってこの役を引き受けたのは正解でしたか？　努力した甲斐はありましたか？

加美ゆかり - 1年以上経ち、今思えばなんであれほど悩まないといけなかったのかと思えるほどですが、悩んだからこそ、自分なりの役の解釈にも確信を持って、あの衣装で踊ることができたのだと思います。

Art Levant – このダンスは大変野生的で原始的な感じがします。シャーマニズムに近いといっても過言ではないでしょう。この衣装だったからこそ、春の祭典のダンスで、これらの感情を再現することができたのでしょうか ?

加美ゆかり - 確かに、この衣装が一番アンドニスが表現しようとしたものに近く、他の衣装では作品自体が違ったものになっていたかもしれません。最終的にはこの衣装だったからこそ、野生的、原始的な面だけでなく女性の強さ、美しさも表現できたと思います。

Art Levant – 一緒に仕事がした振り付け師は他にいますか?

加美ゆかり - オハド・ナハリンの作品を踊りましたが、彼とは直接仕事をしたことがないので、彼と仕事をするのが夢です。

Art Levant – これからの予定は ?

加美ゆかり- 怪我もないし身体的には大丈夫なのであともう数年踊りたいですが、その後は教えを考えています。

Art Levant – 最後に何か一言お願いします。

加美ゆかり - 海外で活躍している日本人ダンサーは多く、才能は不可欠ですが、私はいつも良い時期に良い人々にめぐり合って助けられ、今のポジションにつくことができたので、その感謝の気持ちを忘れずに踊り続けていきたいで
す。

Art Levant – インタビューにお答えいただきありがとうございました。これからのさらなるご活躍をお祈りいたします。

これからも、今後の予定や公演予定がありましたら、ぜひともお知らせくださいね。.